産婦人科も終わりに近づいて来た。
365日病院につきっきりの部長先生を尻目にずいぶん楽をしすぎてしまったが、長い研修のうちということでお許しを請おう。
産婦人科は当然オペがある。うちの病院だとほぼ毎日2件のオペ。しかし、今日は体外受精の「採卵」のみだった。採卵はオペというほどでもなく、外来でやっているところもあるらしい。今日はオペ室でやった。
オペに麻酔はつきものだ。当然のことだが麻酔医がいないとオペができない。どんな軽い麻酔でも、心拍数が下がったり呼吸が下がったりと、急変はいつ起きるかわからない。しかし麻酔科の医師はどこも人手不足で、簡単な短時間の麻酔だったら自分たちでやることも多い。今日も、タカだか10分間の静脈麻酔ということで、僕が麻酔担当になった。
全身麻酔というと、マスクをつけて吸入する「吸入麻酔」を想像する方が多いかも知れないが、実際には気管挿管することがほとんどなので、簡単なオペの時には吸入麻酔はあまりやらない。その代わりに「静脈麻酔」をする。超短時間型の麻酔薬を静脈から注射する。
いま一番多く使われている静脈麻酔薬はプロポフォールという麻酔薬だ。牛乳みたいな白濁した液体で、見るからに怪しい薬だ。体内での代謝が極めて速いので、オペ後は簡単に麻酔からさめてくれるため、使いやすい。
けど、このプロポフォール、副作用が少ないということでよく使われているが、僕の印象では、覚醒後にラリっている人が多い。
大抵の人はオペ後に覚醒すると、
「手術はいつ始まるんですかぁ?」
と言い出す。そのほか、「わたしはね~む~い~のぉ」などと言ってぐずぐず駄々をこねたり
「ひゃはは~こんな簡単なら何回手術受けてもいいわぁ」とかテンションの高くなる人も多い。
今日の採卵もプロポフォールを使った。
「じゃあこれから麻酔しますね」
といって静注すると30秒もしないうちに麻酔がかかる。
今日は採卵に少し手間取っていたようだ。僕は心電図や血圧のモニターを見ながら麻酔のかかり具合を見ていた。
すると、突然、患者さんの目がパッチリ開き、ヤバ、追加しなきゃと思ったのだが、その瞬間、至近距離で目が会った患者さんが、
「あなたは私のご主人様ですかぁ~?#&''()~~=~()'~=)('&<>?_」
続きは何を言っていたのか聞き取れなかったが、(申し訳ないが)気味悪くなった僕はさっさとプロポフォールを多めに追加した。続きの言葉を言い切る前に、また寝てくれた。
採卵が終わって、覚醒した後、その患者さんが最初に言った言葉は
「まだ手術は始まらないんですかぁ~?」
プロポフォールの副作用には「多幸症」と書いてあった。
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